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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)

★ザ・ゲーム(1979年)編集中コンテンツあり

ゲーム(1979年)「もり」発表作品
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
●現在編集中●
ザーゲーム.
山 田 博’一

 南太平洋上。静かな波の音に混って楽団の
音が聞こえてくる。大型久ルーサーが岸上を
航行し。ている。。友ナダのプルにゲート鑑を買
い取り、七れを個人用として改造した船だ。
 少し離れた海面上に潜望鏡があがっていた。
 船の上で、気持ち良く酔った男が二人、舷
側に出て潮の香リをかいでいた。手の中のグ
ラスにはまだ酒が悛っぞ’いる。二人共白のフ
ォーマルスーツを着ていた。 
 「ふ1つ、酔ったよ」
 「いや、まだまだ、パーティはこれからさ。
こ九からおもしろくなるところざ・」 い。………。』
「ところで、君、あのリーマン候爵の側にい
た東洋人の女性は誰なんだ」y

「何だ。君、知らなかったのか。0、彼女が有名
なヨーコ・南条だよ」
 「彼女が、ヨーロッパ社交界の『。新星か』七万
 「そう、そして日本の大財閥の檎続者だ」
 「リーマン候も彼女の金に目がくEんだか」
 「先妻が死んでだいぶたっしね。それに確か
に彼女は美人だし。な」。        。
 衝撃か船を襲った。潜水艦から発射された
魚雷那爆発しだふだ。・叫光ど轟音。。振動か紅、
全体を揺がした。
 ブデーがなり、パーティは中止された。船
員が重機関銃を。セy.卜しヽサーチライトが海
    
上を照らす
 「何胚、あれは」
 タルトザー、の右舷・.に.潜水艦が孚上した.ク
ルー.ヂLがら重機が、火を吹い.た..か射程外だ
43
44
つた。逆に潜水艦から砲撃される。アンテナ
が吹き飛ばされた。連絡が不可能となった。
 潜水艦から拡声器を通じて声が聞こえてき
た。
 『無駄な抵抗はやめたまえ。無益な殺生を我
々はし・たくない。我々はヽヽヽセス南条に用事が
あるのだ。我々のポートが、そちらの船へ接
舷する。いいか無益な攻撃はするな。魚雷の
照準はそちらに合わせてある』
 「どこの国の潜水艦だ」
 「わからん。国籍はわがらんが、どうやらソ
連製らしい」
 (ツチが開き、やがてモーター付ゴムボー
トがひっぱり出され、クルーザーの方へやっ
てくる。ゴムポートをあやつっているのは屈
強な男だ。
 ブリッヂには一人の女が待っていた。まわ
りに武装した船員がとり囲んでいる。彼女は
美人だった。船に近づく男を見ていた。
 男はボートから身ごなし軽く船のタラ。プ
をあがる。男は船員に見張られながら、プリ
「’ツジヘあがってきた。女は驚いたようだった。
`tるで死人を見たかのようだった。男が口を
開いた。
 「ひさしぶりだな。ヨーコ。いい御身分じゃ
ないか。だいぷ探したぜ」
 彼女に出会ったのはわずか1ヵ月前の事だ
った。俺は、ホテル=ミナトヘ行こうとして
いた。わずかばかり俺のポケットはふくらん
でいた。久しぶりのうまい食事にあり・つこう
としていた。ボロ車をホテルの駐車場へっっ
込もうとしていた。中で悲鳴が聞こえた。七
の声の方へ車をころがした。女が無理やり車
へっれこまれようとしている。こんなシーン
では当然俺の役目は決まっているのだ。
 俺は後から一人の男につかみかかる。
 「やめろ。大の大人が三人もかかってする事
じ?ないだろう。女性をいじめるのはやめな」
-
44

俺はカッコをつけていった。もちろんナイト
のつもりだった。
 レイ=バンサングラスをつけ、B9ブラザ
ーズのスーツをすきまなく着こなした男達は
どう見ても正業についている男達には見えな
い。いわゆるインテリn=ヤクザつて手合いだ
ろう。見なりは俺よりかなりいい。が上着か
らわずかに拳銃がのぞいていた。
 「うるさい。関係ない奴はひっ込んでいな。
ケガをしたくなけれぱな」
 すごみがあった。


 俺としてはここで引きさがるわけにはいか
ない、手刀で右横の芳の首すじをなぐりつけ
左側の男の金的をけり上げていた。同時に、
左側の男から拳銃を抜き取り、そのリボルバ
ーの安全装置をはずしていた。
 俺は七れを運転席の男の頭に突きつけてい
た。
 「いいか、消え去るのはお前達の方だ」
 我ながら手際がよかった。車は七の女と俺
それから男からうばったスベシ″ルチーフを
残して走り去った。
 俺は自分が助けた女の顔を見た。どこかで
見た顔だった。どこか記憶にひっかかる所が
ある。俺はじっと自分の顔をみつめかえして
いる女に尋ねた。
 「ひょっとして、、あんたは」
 「そう、やっと思いだしてくれたわね。西さ
ん。私は水原洋子よ。高校時代のクラスメイ
トだったわね。私はすぐ気がついたわ。今は
南条洋子だけれど」
 金がかかった服だった。今の俺のなりと天
と地の違いだった。
 「こり?、驚きだぜ。まさかね。しかし、お
宅、あの頃からキレイな子だと思っていたけ
ど、今の方が・:」
 「お世辞はけっこうよ。西さん。助げて下さ
ってありがとう。こんな所で立ち話も何だか
ら」 彼女は冷たく言い放った。
「そう、積もる話もあるわけだ」


 俺達二人は、ホテル最上階のラウyジヘ上
った。
 ソファーに腰をかけ、酒を注文したあと、
俺は彼女に尋ねた。
 「一体、何事なんだい。あの男達は」
 彼女は一瞬、ためらいの色を見せ、それか
ら意を決していった。
 「西さん、ヽお願いがある。の・先刻の腕からし
て、あなた、普通の会社員じそないようね。
でも風のたよりであなたアメリカへ留学して
いたと聞いていたけれど」
 「アメリカへ行ったのは本当さ。が俺はエリ
ートaコースには乗れなかったのさ。俺はベ
トナムへ行っ‘たんだ。アメリカ国籍も持って
いる。何人かわすれたが、人を殺したよ。今
じヤこのY市でしがない探偵稼業を、といっ
ても興信所を営んでいるわけさ。離婚問題と
がそんなちっぽけな仕事だが、けっこう食っ
てはいける」
 「わかったわ。やはりね。かえって頼みやす
いわ。・お願いがあるの。私を助けてほしいの。」
 「どうやら警察には話せない事情がありそう
だね」
 「そう、実は私の子供の命がからんでいる問
題なの。貳め名は南条洋子。あの南条財閥の
嫁なのよ」  づ
 「君は玉の興に乗ったわけか」
 「でぢ私の夫、南条安夫は、あいつらの仲間
に殺されてしまったの」
 「殺されたって、あいつらは一体」
 「正体がわからないの。でもどうやら小さな
島がからんでいる`ようなの←
 「島って。それはダンナの遺産かいI・
 「そう。久賀島というんだけれど。沖縄県と
鹿児島県との境にある小さな島なの。これと
いった産業もなく、今は人も住まなくなって
久しいわ。無人島なのよ」
 「その島がどうからんでくるんだ」
 「七の島に何かあるらしいの。おまけに子供
が誘拐されて、その島にいるの。子供といっ
------------------

てもヽ実は血のっながりはないの。南条安夫
の死に別れた先妻の子なのよ」
 「それで、あんたも連れ去ってどうしょうと
いうつもりかな」
 「あの島に何かが隠されているらしいの。そ
れを私と子供を連れ去り、舅の南条剛造から
聞きだそうという腹らしいわ」
 彼女の眼は助けをうっ・たえている。そして
彼女は美しかった。美しさは一つの財産だ。
俺は、女は過去のイメージから少しも変化し
ていないという考えを持っている。今の彼女
の本当の姿がどうであろうともだ。
 「わかった。ふきうけよう」
 「ちょっと待つでね。南条剛造にあなたの事
を電話するわ。そして家に来てもらうわ」
 彼女は電話BOXへ向かった。かなり長い
やりとりがあったようだ。
 俺は彼女の車、フォードHHカマロに乗せら
れていた。彼女は(ンドルをにぎりながら言
った。
 「言っておくけれど、私と舅の仲はいい事が
ないの」
 「わかってるよ。よくあるケースだからね」
 南条の家はY市郊外の丘陵地帯にあり、そ
の姿は森林にかこまれたヨーロッパの城の風
情だった。門衛がだまって、無表情に彼女政
車を通した。
 老人がアルデコ調の応接室にすわっていた。
今にも死にそうな、片足を棺桶につっこんで
いる感じだったが、眼光だけはするどかった。一
「君が西くんかね。話はこれから聞いた」
 なめまわすような眼で俺を見ている。

 「失礼だがf “嫁の。いう程、腕が立つようには

見えんのだが」’

 「お父さん、私がこの人の腕は保証するわ」
 冷たい眼ざしで剛造は洋子を見た。はき捨
てるように言った。
 「お前に、気やすくぉ父さんとぱ呼ばれたく
はない」 剛造は、近くにいた執事を呼んだ。

執事は剛造にファチルをわたした。

-----------------------------
 「西くん。君の事は数分間の間に調べあ岬だ
このファイル通りの男だとしたら、君と契約

しよう」
 「話は早いわけですな。誰に調べさせたのか
わかりませんが。七のファイルの通りの男で
すよ。私は」
 「わかった。犬にはエサを与えないと動きは
しないだろうからな。ただし、これは自分自
身を守ってくれと言ったと思うが、私は別の
  lχ
事 依頼しよう」
ヤいって、お父さん、それじゃ、話が・:」
 「お前はだまっていろ。わしのやり方の方が
てっとり早いのじや」
 「成功報酬は前金で五千万、成功後五千万だ
 「もちろん税抜きででしょうな」

 「もちろんだ」

 「で仕事は」

 「これから聞いたと思うが、久賀島という無
人島へ行ってもらいたい。私の孫を助け出し
奴らを皆殺しにしてくれ。これが孫のまり夫
の写真だ」
「待って下さい。人を殺すですって」
「西君、君の過去を唸て洗ったと言っただろ
う。君のベトナム戦におけるニックネームは
確か狂獣士だったはずだ」
 俺は言葉につまった。
 「それで一億円の報酬というわけですか」
 「必要経費は別に認める。それに武器の方は
南条重工業が関係している製μなら何でもい
いたまえ。ただし原爆は無理だが」
 俺は、・ちらっと南条洋子の方を見た。彼女
は無表情だった。俺はこれが巧妙に仕掛けら
れた罠だとはこの時気づかなかったのだ。
 久賀島へ行く前、俺は一日の休暇をもらい、
沖縄へ飛んだ。那覇はベトナム戦争時代、休
暇でよく来た町だった。いきつけのパーーメ
ソンヘ入った。
 「よう、丈さん。何年ぶりかね」
 バーテンの才賀はまだ俺の事を覚えていた。
 ---------------------------一

 「そうさな、もう10年になるかな」
 才賀はやせこけた男でかまきりを思わせる。
‘「今は何の商売だい、丈さん」
 「おはずかしいが、探偵ってやつさ」
 「わつ、かっこいいじゃないの。’「Iドボイ
ルドみたいでさ」       卜
 才賀はグラスをみがきながら言った。
 「そんなにかっこよくな・’いよ冲日本じ夕「、ジ
キを持てないしな」俺は少し照れている。
 ドアが開いて、米兵が数名入ってきた。
 「おい、お前、丈じゃないか」黒人の大男が
七う叫んで俺の方へ走ってくる。ベトナム戦
争の戦友ビリLだった。
 「お前、まだ生きていたのか」 「お前こそ1 ‐
俺達はだき合った。
 「ピリー、まだ軍隊にいるのか」
 「そうさ。黒人にとって軍隊はまだましな商
売だからな。七れよりお前、どうしてここへ
 「うん’、ちょっと仕事でね」
 「丈さん、今、探偵やっているんだって」
 パーテyの才賀が口を入れた。
「やめろよ、才賀」
 ピリーは少し心配そうな顔をした。
「危い商売やっているな。あいかわらず。ど
こへ行くんだ。親友の俺にもいえないのか」
 「うん、ちょっとね」
 「言えよ、丈、水くさいぞ」
 俺はしかたなく、小声で島の名をささやい
 その名を聞いてピジーは急に顔色を変えた。
「丈、やめてお・け、親友として言う。あの島
にだけは近づくな」大きな声でビリーは言っ
た。俺はその大声に驚いた’      L
 「一体どうしたんだい、ビリー、ふるえてい
るじゃないか。ベトナム戦の猛者のお前が」
 「やめるんだ、丈、命がいくつあってもたり
ないぞ」
 先刻から俺達の話を聞いていたカウンター
に居た男達が側に来た。たぶん、俺を見張る
ように南条にいわれているのだろう。
-----------------------------一

 「黒人のお兄さん、ちょっと静かにしてもら
えないか」
 「何だ、あんた方は」
 「誰でもいい。西、南条さんに従って早く島
へ行け。それに二度と島の名は口に出すな」
 「いいか、七このバーテンもわかったな」
 男の一人がドスでビリーのほほをかすった。
 うっすらとほほから血が流れる。
 「やめろ」ビリーが、戦友をとどめた。
 「ここは場所が悪い」
 「大丈夫か。ビnノ’・・」
 「いいか、わかったな、西」男達はいいすて
てパー=メソンから出て行った。
 「丈、お前さん、あいかわらず疫病神だな」
ビリーはつらそうに言った。あのベトナム戦
の時の悲しげな顔だった。
 「すまん」俺は心からあやま。た。一体あの
島に何があるというのだ。ピnノーに聞こうと
したが、彼は戦友達を引きつれてバーから出
て行く。才賀も口をつぐんだままだ。俺にす
ぐ出て行ってほしいという顔だった。
 「わかった。出ていくよ」
 「すいません、丈さん。あいつら東郷組のも
んなんだ。あいつらににらまれたら、この辺
で商売ができないんだ」うつむきかげんでジ
ョyポリヽ才賀はつぶやいた。
 「わかった」
 俺はドアを開けた。路地裏で悲鳴が聞こえ
る。ゴヽヽヽだめの中へ男が二人ころがされてい
る。さっきのやつらだ。それでもビリーはテ
クナーナイフで彼らを切り刻んでいる。やく
ざは冷あせをながし、失禁しているようだ。
 「いいかげんにしておけよ、ビリー。そいつ
ら死んじまうぜ」・
 「わか`つているさ、それより丈、どうしても
行くのか」           ダ
「ああ、契約しているからな」
「気をつけて行けよ。そして又あおうぜ」
「こんど会う時はおごるぜ」・
「あばよ」ビリーは二人のやくざをかつぎあ
50
動的にふくらむゴムポートが降下して来た
されたらしい。俺は、自分の体を相手にひき


動的にふくらむゴムポートが降下して来た
されたらしい。俺は、自分の体を相手にひき

51

げていた。
 一日『後、俺は奄美大島から南条財閥がチ″
1夕したセスナで久賀島へ向って飛んでいた
確かに、南条財閥は原爆以外のものは準備し
てくれていた。背後の座席には、武器を積め
込んだパ″クが積み込まれている。
 「ここで降下だ」パイロ。ツトが言った。
 「ここって。まだ、海の上だぜ」
 「島の上まで飛べば、奴らがレーダーで気が
つく」
 夜空の中を俺は海へ向かって降下していた
パラシュートはまっ黒に染められていた。海
中に俺の体は突っ込んだ。後から武器のパッ
クが投下された。さらに海中に落下すると自
勣的にふくらむゴムボートが降下して来た。
 ゴムポートに向かって泳ぎ始めた俺に背後
からナイフが襲ってきた。フロ丿グマンだ。
どうやら俺のパラシュート降下はすでに発見
されたらしい。俺は、自分の体を相手にひき
よせ、相手のナイフを持つ腕をかかえ、潜り
込み、右ひじで相手の水中グラスをたたきわ
った。フロッグマンは急に眼がみえなくなっ
た。ナイフを奮い取り、背後から相手の延髄
を突き刺した。男は静かに海底へ沈んでゆく。
 ようやくの事で、俺はゴムポートへ泳ぎ着
いた。
 空が急に明るくなった。曳光弾らしい。爆
音をあげて、攻撃ヘリ、ヒューイコプラが飛
来してきた。セスオも発見されたようだ。
 攻撃へ・リの前部スポンジyから隋銃弾がセ
スナにたたき込まれた。セスナには武器はな
い。反撃のチ″ンスなく、セスナは爆発した。
 「アーメン」俺は十字を切った。パイロット
の名前も知らなかった。今度はこちらの番4
落ちついてはいられない。ヘリはサーチライ
トをつけ海上を硝戒している。俺はゴムボー
トごとカメレオンーダー・卜をかぶった。ヘジ
が通りすぎるのに無限の時間がすぎていくよ
うな気がした。

51


 どうやら、ヘリは通りすぎたようだ。
 海岸へ辿り着くためカイを使ってこぎ始め
た。
 久賀島、島の周囲は10Kmもないだろう。
東西、南北、それぞれ2・5Kmくらいかド
奴らは、島の中央にある標高412mQ中腹』
に小屋を設け、見張りをつけていると南条剛
造は言っていた。が、この警戒は何だ。俺は
どこの国の軍隊を相手にしているんだ。
 砂浜、北東浜ヘゴムポートを引きあげる。
耳元を弾がとおりすぎた。歓迎のあいさつか。
どうやら相手はノクトビジョンを使っている
らしい。おまけに消音銃だ。
 海岸の岩陰に俺はクギづけになった。その
間、俺は火線をさけながら、オートバイをセ
ットアップした。
 そいつは自衛隊用特別仕様車であるホンダ
XL250を改良したものである。厳しい走行条
件に耐えるためフレームは材質変更強化され。
エンジン出力も22馬力までひき上げられてい’
る。通常のマフラーの後にもう一段マフラー
が着けられている。光を反射しそうな部分は
すべて黒塗りされている。(ブもツヤ消しだ。
リヤガードとフロyトガードも増設されてい
る。ヘッドライトにはストーンガードがつけ
られている。ただ自衛隊用仕様車に付いてい
る部品で不必要なものはとりはらわれていた。
野戦用無線器などはつけられていない。連絡
先など俺にはないからだ。
 俺は右ももに反射止めが施された小銃用銃
剣を付け、左’袖部分には信号銃。さらに軽量
ヘルメットをかぶる。顔にドロースを塗り、
靴はピプラムソールのあみ上げ靴に変えた。
 タイヤはもちろんサンド用のタイヤをはい
ている。準備を一分で仕上げた俺はウィポン
類をパックサックに積め込み、火線の飛んで
くる方ヘオートパイをキ″クした。ジグザグ
に動き、銃弾をさける。相手が近距離になっ
た時、俺は片手で、H&K33KAIアサルト
‥‥1ライフルを連射していた。30発の全弾をた
52
---------------------------------------
たきこんだところで、相手の火線は消えた。
弾層を入れ直し、ようやく、狙撃手の側へ辿
り着いていた。七の頃、俺の眼はやっとのこ
とで、暗闇になれていた。男の側にM3カー
ビンがころがっている。俺はオートバイをお
り、そいつにゆっくり近づいた。男は俺がひ
ざまづいた時、ナイフを片手に突きかかって
きた。俺はかろうじて、七の一撃をさけ、ア
サルトHHライフルの銃床で、頭の頂点をなぐ
りつけた。倒れた男のノドブエを俺はかき切
った。
 今度は上空から、先刻のヘリが降下してく
る。スポソソyから重機銃弾が飛んでくる。
俺は再びバイクにまたがり、目の前にあるア
ダソ樹。林に逃げ込もうとした。ウィリーを使
いバラyスをとったが、一瞬、転倒した。ヘ
リは上空でホバリングし、一人の男が(シゴ
をつたわって降下してきた。どうやら俺が機
銃弾に当ったと勘違いしたらしい。俺はうず
くまったままだ。
 男はM16アサルトライフルを構えこちらへ
近づいてくる。2m程に近づいた。所で、俺は
体を反転させ、相手の一連射をさけ、先刻の
ナイフを相手のみけんへ突き立てていた。
 飛び上がった俺は左腕の信号銃を抜き、ホ
バリングしているヘリのコックピットめがけ、
信号弾を射ち込んだ。
 ヘリは急上昇しようとあせったが、内部で
信号弾が発火し、火だるまの三人の男が落ち
てきた。ヘリは回転しやがて、側のアダン樹
林へ突っ込み燃え上がる。
 相手の増援がこないうちに姿を隠さなけれ
ばならない。。
 オートバイで山道を漂山へとむかう。10分
程行った時、新手が現われた。アダンとカヤ
の中からサンドパギーが出現した。上にリン
グマウントを装着し、12・7mm機銃を装備
している。ランポルギーニーチータだ。最高
速度150Kmの車だ。バイクではすぐに追いつ。
かれる。単射をさけて、山道のわきへのがれ
53---------------------------------------------------------一


山なりの道の急カーブで、俺は瞬間、道の片
側の丘へ500Xg近いバイクをはずみをつけ押
しあげた。しばらく丘の上をとって返し、追
撃してくるチータの真上へ、バイクごと落下
した。バイクのタイヤの下で射手は押しつぶ
された。チータはカープの道の壁へ激突し、
横転した。運転手はフロントフレームを突き
破り、頭をくねらしている。もうバイクもお
しゃかに近か‘つたが、何とか動かせる。血ま
みれのボディはあまり気持ちのいいものでは
ないが、しかたがない。
 フダン樹をすぎ砂疆地にはいる。小屋がみ
えている。側に先租の霊をなぐさめる拝所
 (うがんじよ)があった。何の攻撃もない。
おかしい。そう思った瞬間、俺はオートバイ
ごと持ち上げられ、閃光が俺を盲いさせた。
爆音が一瞬俺をつんぼにした。一瞬、俺はオ
ートバイをけって自分から体を空へ投げだし
ていた。く七つ地雷原だ。回転しながら着地
したが、ウィポylパックはバラバラに吹き
飛んでいた。俺も着地のショックで一瞬気を
失なった。
 気がつくと、5名の男達がM16アサルトラ
イフルを手にして立っていた。のがれようが
なかった。
俺は男達に連れられ
目の前に見えた小屋
に入った。が中には子供の姿はない。
 「おい、お前たち則夫くんをどうしたんだ」
 が、男達は無言のままだった。俺を椅子に
くくり着けた。
 一人の男がガスaバーナーに点火し、俺の
方に近づけようとした。俺を拷問にかけよう
という腹らしい。俺は椅子ごと勢いよく後へ
倒れ込み、同時に右足でカヌーバーナーを持
つ男の又ぐらを蹴り上げた。カヌーバーナー
がころがり、一人の男の体にまともに火が乗
り移り、さらには小屋にも火が移る。後に倒
れた瞬間、’木の椅子はバラバラに壊れた。一
人の男がM16を構えようとしていた。椅子の
-54---------------------------------------------------------------

足を投げつけた。’椅子の切れ端は男の顔に突
きささった。男はM16ライフルをとり落とし
た。投げた一瞬、俺は体を横に投げ、もう一
人の男のM16ライフルの連射をのがれ。床に
ころがっていたM16を取り上げ、横ざまに連
射した。全員が倒れていた。部屋の隅に、俺
のウ″ポソ=パ″クが整理されていたので、
それを担ぎ上げた。外へ飛び出した俺は、火
に包まれている部屋の窓へ手榴弾をほおり込
んだ。爆発音がおこり、小屋は吹き飛ぶ。
  “       I     く一       『
 再び、重機銃の火線が俺を襲った。小屋の
側に見えていた拝所(うがんじよ)に砂袋に
囲まれた銃座がのぞいている。MG3重機銃
の銃座だ。俺は、岩陰に走り込み、ウィポy
9パ。クからウジ=ナブマシンガンを取り出
し、グレネード弾を装着する。榴弾である。
発射する。閃光がおこり、銃座は静かになっ
た。
 急に拍手が聞こえた。それはこの久賀島に
異様に響いた。俺は空耳かと思った。
 拝所の戸びらが開いた。

`「ブラボー、ブラボー」小さなガキが手を叩
いてぃやがしたパくそっこのガキは一体。が
俺の胃は驚きのあま力飛び出しそうになった。
そのガキの顔は南条のオヤジから預かった写
真とうり二つだった。こいつが南条則夫なの
だ。
 「君、則夫くんだね」俺は急に丁寧な言葉使
いになった。なにせ依頼主さまのお孫さん。
 「そうだよ。君。しかし、今日の得物はイキ
がよかったなあ、うれしいよ」
 俺の表情はこわばった。得物だってこの俺
がか。何を言っていやがるんだ。
 「ところで、誘拐犯はもういないのかね。そ
れにこいつらはどこの軍隊だ」俺はあたりを
注意しながら言った。
 「軍隊だって、(″(″「」このこましゃく
れたガキはぶい始めた。。人の苦労を何だと思
っていやがるんだ。
 「それに。今日の得物とは何の事だ」
55----------------------------------------------
56-----------------------------------------
 「君が得物なのさ。とびきり上物のね」俺を
指さしている。ガキの眼は異様に輝いている。
 「どういう事だ」俺はいささか腹を立ててい
た。
 「人間標的というわけさ。戦争ゲームには相
手が必要だろう」
 「戦争ゲームだと」
 「知らないのかい。アバロンヒルやSPIの
戦争ゲーム、シュミレーショy=ゲームを。
今、ブームなんだぜ。僕はそれを立体的に、
よりリアルに、そして実戦化したわけさ」
 「このガキは」俺はこのガキに銃をつきつけ
ていた。
 「おっと、僕に手を出すのはやめた方がいい
七の前に俺のゲンコはガキの頭を目がけ飛ん
でいた。一瞬、ガキの姿は消え、俺は空ぶり
をし、バランスをくずした。
 「く七つ、俺の眼がどうかしたのか」
 ガキの姿は再び同じ位置にある。
 「いや、君の目の錯覚ではない。僕はテレポ
Iドしたんだ」
「テレポートだと」
「何にも知らない男だね。君は」俺はこの言
葉をどこか・で聞いた事があった。
 「テレポートとは空間瞬時移動のことさ。つ
いでに聞くが、エスパーつて知ってるかね」
 「エスパー?」
 ガキはこまったような顔をして言った。
 「超能力者の事さ」
 「というと、お前がそれだというわけか」
 「そうだ。僕はこの島をオジイからもらって
遊んでいるんだ。戦争ごっこをやるためにね。
得物は、あの女が探してくれ、毎週一回オジ
イが運んでくれる。対戦相手の事さ。僕のこ
の拝所(うがんじよ)の地下のデータ=ルー
ムに、この島じゅうに配置されているVTR
ぞ通してヽすべてのシーンを見る事ができる
わけさ」
 「あの女とは洋子の事か」
 「そう、あの女とは一つ約束があるんでね」

58-------------------------------------------
56ぬけ

「それに、俺の前に何人もこの島へ・:」
 「そう何人も一億円のエサにつられ、やって
きたさ。でもこの拝所(うがんじよ)まで辿
りついたのは君が始めてさ。君の能力には脱
帽するよ」
 ビリーはこの島のうわさを聞いた事があっ
たのだろう。だから俺を止めたのだ。
 「俺はお前のゲームのなめに何人も人を殺し
たわけか」
 「君は誰も殺しちゃいないよ」
 「何」
 「見てごらん」
 俺は背後を振り返った。ガキが指をならし
た。一勢に死体が立ちあがった。ある者は片
腕がちぎれ、ある者は首が吹き飛んでいる。
が立ち上がってこちらへ歩き始めている。
 俺はトリ(ダが立った。思わず失禁してy
まった。
 奴らの体から俺の射った弾丸がポロポロと
落ちている。体の中から外へはじき出されて
いるのだ。
 「うわっ、こいつらは」
 「驚く事はない。言っただろう。これは戦争
ゲームなんだって、あいつらはみんな人形さ。
僕の意志で動いている」
 彼らは則夫の前に整列した。ガキが手をI
振りすると、50名の男達は一瞬かき消えた。
 「ほら見てごらんよ」 則夫のカバンの中へ
男達が縮少化されて入っていた。まるでミニ
チュア9モデルのように。
 「こ、これは」俺はもう腰が抜けかけている。


 「斟夥の軍隊さ。他にも僕は今、軍艦や潜水 一
艦を作っている。それに」則夫は再び手をふ
った。
 「あそこを見てごらん」 俺は自分自身の眼
を疑った。何もなかった所にM103戦車が15台
出現じていた。
{「これも僕の手駒なんだ。でも使うところが
ないのさ。人一人相手に戦車を何台も使った
 っておもしろくないしね。オジイが使わさし

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てくれないんだ」則夫は欲求不満のようだ。
 「俺はどうなるんだ」
 「これを見た以上死んでもらわなきゃね。ど
んな方法がお好みかな」
 「わっ、待ってくれ」
 「みっともないね。さっきの戦闘ではそんな
事はなかったのに」
 『先刻と、今では違う。お前みたいな化物あ
いてではどうしょうもない』
 「しかたがない。苦しまずに即死させてあげ
るよ」則夫はゆっくりと手を上げた。
 が一瞬。七の手が止まる。表情が厳しくな
っていた。               ″
 「話を変えよう。僕に雇われないかい」俺は
命拾いしたようだ。
 「どうしたんだ、一体」俺の声はふるえてい
る。
 「オジイが危いのさ」
 アメリカの偵察衛星、ビッグバードが、久
賀島の上空に停止していた。映像は国防省の
一室のスクリーンに映し出されている。
「ほしいな。この子供」将軍が言った。
「そうです。今までは、兵隊だけでしたが、
戦車も出現させるなんて」大尉が同意する。
 「彼が白熊の手にはいってみろ、軍事バラン
スがくずれてしまうぞ」
 「同感です」
 「彼は南条剛造の孫だったな」
 「そうです」
 「わかった。七の筋から何とか手を打ってみ
ろ」
 「わかりました」
 同刻、ソ連、クレムリン宮殿の一室。
 「偵察衛星チ’ヤイカの映像通りである事が、
原子力潜水艦ウラジミール号の連絡で確認さ
れました。VTRが入手できましたので映し
ます」KGB情報将校が円卓を囲む政治局員

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の前で言った。映像が映し出された。
 「恐るべき子供だ」 「同感です」 「超能力者
ですね」
 「もし、この子がアyクルーサムの手に渡っ
てみろ、どうなる、ユーリノフ政治局員」
 「非常に危険です、我々の国家の安全にもか
かわってきます」
 「七こまでわかっているなら、早急に手を打
て。彼を手に入れるか、さもなければ抹殺し
ろ」
 「わかりました。しかし彼は南条財閥の孫で
す。まず七の方面から」
 「あのシベリアの一件にからんでいる南条重
工業の…」
 南条の家に、明らかにアイピ=リ’‐グの卒
業生だと思われるアメリカ人達が訪れた。彼
らは態勲だが強圧的に南条剛愈に言った。
 「どうでしょう。則夫君をアメリカへ留学さ
せませんか。我々は多くの得物を用意できま
すよ。我々には国内に広大な実験場を多数所
有しています。戦車をも相手にしていただけ
ますよ」     ノ
 剛造は則夫の事がわかっているのに、驚き、
冷汗をかいている。
 「しかし、あれはまだ幼い」
 もう一人の男が言った。
 「南条さん。おわかりになっていませんね。
もし留学させていただかなければ、あなたの
アメリカにおける会社や財産が凍結される、
さらにあなたも不慮の事故をとげる可能性も
あるわけですよ。それに久賀島を、あやまっ
て在日米空軍が爆撃しないともいえませんし
ね」
 「君達は、私をおどすつもりかね」
 「いいえ、これは取引ですよ、南条さん。あ
なた・にメリ″卜を与えようと我々も努力して
いるわけですからね。七の辺をくみとってい
ただきたいですね」       。
「それに私達はプラフは使うつもりはありま
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せん。やる事は必ずやります。七れも一週間
以内ですよ」
 それだけ言い残すとアメリカ人達は南条家
を去った。
 南条家へ続く道路の脇道でソ連人達の車が
待ち構えていた。車が通りすぎた後、本道へ
出る。
 「侍て、今の車に乗っていたのはCIAの口
イじ?ないか」
 「そうです」
 「とすれば、奴らも南条則夫をねらっている
わけか」ブルガーニンは少し考え込んでいる。
KGB日本支部のおえら方である。
 「よし、破壊班のブロイチェyコに連絡しろ
奴らを途中でつかまえ、奴らのサジェスチョ
ンを白状させるのだ」
 「南条さん、則夫くんをモスクワ、ルムンバ
大学へ留学させていただけませんか。我々の
T72戦車を数台プレゼy卜さしあげますよ。
それにムルマンスク市近郊に則夫くん専用の
実験場も与えようじゃありませんか。それに
ミグも、潜水艦も:こ
 今度はソ連人達が南条に談判をかけている。
 「残念ですが」。
 ブルガーユンが南条の言葉をさえぎった。
 「それじゃ南条さん。シベリヤの件はどうな
ってもかまわないわけですな。それにあなた
もお年だ。もしお孫さんがなくなったり、あ
なたも急死なさったら、この日本有数の南条
財閥はどうなるのでしょうな」
 奇妙な程、ソ連人の話はアメリカ人のもの
に似ていた。これもKGB破壊班プロイチェ
ン`’‘ゐ努力の賜物であった。
 「君達も脅しか」
 南条は一瞬、洋子の顔を思い浮べた。もし
わしが死ねば、あいつが・:
 「いいえ、我々はソビエト人民共和国の名誉
にかけて、このプロジェクトは実行いたしま
す」ブルガーニンの張り切った胸に数多くの
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勲章が輝いている。
 南条は久賀島の孫に電話をかけていた。
 「…というわけだ。お前、どちらを選ぶね」
 「オジイ、七れはおもしろいな。でもどちら
に行っても片方が納得しないだろう。一方に
いけば一方が必ずオジイを暗殺するだろう」
 「お前までわしを驚かすつもりか」
 「だって本当だもの」則夫は少し考えていた。
 「よし、’わかった。両国にこう提案してよ。
島の中央、僕のいる拝所(うがんじよ)まで
辿り着けた国の方へ行くってね。ただし両軍
共人数は50名だよ。僕の黄泉の軍隊はいっさ
い守備しない。二国だけで争ってほしいんだ。
賞品は僕ってわけだよ。それに伴う権力とね’
 「本当にそう伝えていいんだね、則夫」
 「もちろんさ。でもオジイも気をつけてね」
 「わかっているさ」
 則夫には剛造の背後に忍びよる夜の影に気
づいていたのだ。
「大変だ、さっそく、本国へ連絡だ」
 両国首脳は各国軍隊の精鋭を選抜にかかっ
ている。
 かくて。あの有名な久賀易の戦いの冪が切
って落された。
 カラシニコフAKMライフルを手にしたレ
イドピギ(ソ連邦特殊攻撃部隊)がミル=ヘ
リコプターで空母キエフから久賀島へヽ飛来し
てきた。西浜に集合する。
 コルト=コマソドウライフルを手にしたア
メリカ、グリーンベレーが島の東浜に上陸し
た。島のまわりにはソ連太平洋艦隊と、アメ
リカ第7艦隊がにらみあっている。
 全世界の観戦武官がこの戦いの成り行きに
興味を持っていた。
 偵察衛星はもちろん、島の上空に固定され
ている。
一61---------------------------

 電話はもちろん、両国の情報部によって盗
聴されていた。
1
 ノアメリカの映画会社数社と、通信社がこれ
を聞きつけ、取材を申し込んだが、婉曲に断
わEれた、というよりも脅かされた。
 偵察衛星の映像は特別の計いで南条剛造の
家にも届いていた。南条剛造は手に汗して映
像を見つめている。
 洋子が七の部屋に入ってきてお茶を置いた。
剛造は画面に気をとられ、洋子の七の時の表
情には気づいていなかった。お茶を一気に飲
み込んだ。突然、剛造は苦悶の表情となる。
 「うっ、お前、お茶の中に。お前はどちらの
まわし者だ」洋子の方へふるえる手を延しな
がら、苦しい息の下で剛造が言った。
 「どちらでもありませんわ、お父さま」洋子
は冷たい眼ざしで見つめている。南条は最期
のあがきで、洋子につかみかかろうとしたが
倒れた。洋子は南条が完全に死んだ事を確認
しヽそれから演技を始める・        。
 「キャ’‘ツ、お父さま」           一
洋洋子は、さも義父が倒れた事に驚いたかの
よう剛造をだきおこした。しかし南米原産の
猛毒はすでに剛造の命を奪っていたのだ。
 ちょうどその時、島の中央にある拝所‘(う
がんじよ)が吹き飛ぶのが、モニターーテレ
ビに映った。
 洋子はそれを見て、にゃりと笑い独りごち
た。
 「これで、財産は総て・:」
 洋子は、執事たちが部屋に飛び込んできた
ので、表情を変え、ソファに気絶したごとく
倒れた。ヽ

 米ソエリート部隊の戦闘を俺と則夫はモニ
ターで楽んでいた。
 「これからどうするつもりだ。則夫」
 「まあ、僕にまかせておきたまえ。僕はこの
局地戦を見ていてね、この久賀島での戦争ゲ
ームが子供の遊びだって事に気がついたんだ」
「ほう、偉いじ?ないか。それで」
62-------------------------


 「僕はこの島を出て、傭兵部隊を作るよ。世
界を相手に商売をするよ。僕の。黄泉の軍隊を
使ってね」
 「よ、傭兵部隊だって」。
 「七うさ、世界の軍隊を相手に戦争ができる
からね」
 「それで、俺はどうすればいいのだ」
 「そう、僕はなりは子供だからね、公の場所
へ僕が行けば、まとまる話もまとまらないだ
ろう。だから大人の君。協力者が必要なんだ
 俺は考えていた。
 「話はわかった。うIん、傭兵か、悪い話じ
?ない。探偵よりはもうかるだろうな」
 俺の頭は極めて単純にできている。
 「そりや、もうかるさ、億単位さ」
 「乗った。俺は七の話に乗った」
 外では米軍が最初優位に立っていたが、ソ
連軍のロケ″卜弾発射筒RPG-7Gの「発
が数人のグリーンベレーをなぎ倒してから、
レイドビキが優位に立った。

 数時間後、相方、一人ずつしか残っていな
かった。両軍とも死亡するか、かなりの重傷
を負ご?ていたのだ。 ……。 ご    ゾ
 両軍の指揮官は同一の命令を受けていた。
もし南条則夫が敵の手に渡りそうならば、機
先を・制して、則夫を殺せと。
 意を決した二人は同時に立ちあがり、各々
の’バズーカを拝所(うがんじよ)‘へ向けていた。
 拝所(うかんじよ)はバラバラに吹き飛ん
だ。両軍の指揮官は「やった」と叫んだあと、一
同時に、相手の存在に気がついた。
 ほんの数百分の一秒間、彼らはにらみあっ
ていたが、両者同時に拳銃を抜いた。ソ連兵
はPMからマカ’ロフ弾を、米兵はバイスタン
グートHDから、22口径弾を相手にめがけて
発射した。銃声は一発にしか聞こえなかった。
二人は。やはり同時に倒れた。
 ホワイト(ウス内の大統領執務室内に偵察
衛星からの映像が受信されていた。
 「残念、引きわけに終ったか」
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「もう少しの所でしたが」
「南条則夫の問題もうまく片づいたようだ」
「大統領、クレムリンからホ″卜=ラインが
入ってきておりますが」
 「よし、でよう」
 両首脳はお互いの軍の健闘を誉め称えた。
 暗黙の了解で南条則夫のことにはふれられ
なかった。そして、年に一回、このような戦
闘を行う事をとり決めた。
 ’久賀島沖に一隻のヴ。クター型ソ連潜水艦
が突然出現し、太平洋艦隊から離脱しょうと
していることにクレムリンは気づいていなか
 った。それに七のヴィクター型潜水艦は登録
番号がなかった。
 「私達二人だけにして下さい」洋子は、心配
げなリ・Iマソ侯爵に向かって言った。
 ・洋子の部屋にはいる。洋子は俺にしなだれ
るように言った。

「西さん、話があるの」
「ほほ、又、子供が誘拐されたとでも言うの
かね」
 「冗談を言っている場合じゃないわ」
 「俺も冗談を言いたくはない。洋子、よくも
俺をだまして則夫のゲームにしてくれたね」
 「南条財閥の半分でどう」
 「何だって」
 「私の義理の父は死んだわ。アメリカかソ連
の情報部、あるいは両方の計り事ですね」
 「あの子を渡さなかったからかね」
 「たぶんね、私の話わかるかしら。あの子ま
だ生きているんでしよ。それでなければ、あ
なたがここにいるわけはないわね」
 「つまり、則夫を俺が殺せというわけかね」
 「そう、そうよ。そうすれば、南条家の全財
産は私達のものよ」
 【残念ながら、。俺は傭われているんだ。今】
 「誰に」
 「あんたんとこの則夫にね」
64------------------------一

 「何ですって」彼女ほ甲高`い笑い声で笑った
 「お笑い草ね。’あの子にですって、どうかし
てるわよ。あなた」’
 「あのね。お宅にはお金の事しか七の美しい
頭の中にはないのかな。俺は知っているんだ
ぜ。君が南条安夫、つまり自分のだんなを殺
したことも、そして恐らく、南条剛造をも殺
したことも」
 「それ、則夫が言ったの」
 「そうさ。ひどい話さ。則夫に、君は自分の
父親を殺させたらしいな」
 「あの子を殺して。お願いだから。殺して、
七うしなければ必ずあの子は私に復讐するわ
洋子の表情が異形になっていた。ヒステリー
状態だ。
 「たぶん、そうだろう。七のために彼はここ
まで来たんだからね。それに俺は確かめたか
った。君が本当に俺を犠牲にしようとしたの
かをね。しかし、もうわかった。君は、昔の
俺がほれていた当時の君じ夕ないって事をね
 「あなた、何、子供みたいな事を言っている
の」
 「ねえ、洋子、男はいつも夢を見ていたいん
だ。子供の心をいつも持っているんだよ。君
への慕情が、俺が君を殺さない唯一の理由な
んだ」
 顔色の変った彼女はデリンジ″-をポーチ
から取り出していた。俺の体に押しつけた。
 「行かせないわ。あなたも私と一緒に死んで
もらう」
 「あI。夢のない女だね。あんた」
 「一人じゃ私は死ねない。私の夢はもうすぐ
実現可能だったんですもの。則夫さえ生きて
はいなければ。西さん、男と女とでは夢の種
類が違うのよ。このトリッガーをひけば私は
夢の中で死ねるわ」彼女は涙を流七ている。
 爆発音がした。俺は一瞬気を失なっていた。
 気がつくと俺は潜水艦の中に横たわってい
る。則夫がテレポートしてくれたらしい。
 「だめじ夕ないか西君、相手の。へIスにまき
65-------------------------------- 一

込まれぢゃ」則夫はあきれ果てた顔で。いった・
 「あの女は君を殺すつもりだったんだぜ。も
ちろん自分は助かるつもりさ」
 「すまん、すまん、俺はやはり女には弱い」
 「まあ、あの話の内容で君が信頼できる男で
あるとわかったけれどね」
 「俺をテストしていたわけか」
 「そうだ。・これからは僕のパートナーだから
ね。南条財閥の。金は総て僕の物さ。しっかり
頼むよ。ポデ4ガード君」
 「が、まだあんたの義母が残っているぜ」
 爆発音が響いてきた。
 「大丈夫さ。潜望鏡をのぞいてごらん」
 クルーザーがまっ二つになり、火柱を上げ
沈んでいく。            “今四I
 「これでおわかりだろう」
 「ああ、もったいない話だな。あれ程の美貌
を持ちながら花と散るか」
 「七れどころじゃないよ。依頼主からの仕事
が待っているよ」よ。   
「どこへ」
「アフリカさ」
「アフリカか、一度は行って見たかった」
 俺は潜望鏡をアフリカがあると思われる方
向へあわした。どこまでも続く海原と星空が
あった。
終わり
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